背景・経緯
施工管理アプリは、工事現場での写真管理、工程管理、図面共有、日報作成、原価管理といった業務を、スマートフォンやタブレットから扱えるようにするクラウド型のツールである。従来は現場で撮影した写真を事務所のパソコンに取り込んで整理し、紙の図面に赤書きし、日報を手書きしてから転記していた作業が、現場で完結するようになる。
導入が進む背景には、時間外労働の上限規制への対応がある。移動と事務所作業に費やしていた時間を圧縮しなければ、現場の労働時間は収まらない。加えて、技術者一人あたりの担当現場数が増えるなかで、離れた現場の状況を把握する手段としての需要もある。市場には多数の製品があり、比較サイト(新しいタブで開きます)では規模別・工種別の一覧が整理されている。
一方で、導入したものの使われずに終わる例も少なくない。原因の多くは製品選定そのものより、選定の基準と導入の進め方にある。
詳細・ポイント
選定でまず確認すべきは、自社の業務のどこが詰まっているかである。写真の整理と電子納品に時間を取られているのか、図面の版が混乱して手戻りが起きているのか、原価の把握が月次でしかできず打ち手が遅れているのか。課題によって必要な機能はまったく違う。機能一覧の広さで比較すると、使わない機能が多い製品を選んでしまう。
評価の軸として実務的なのは、次の点である。第一に、必要な機能が過不足なく使えるかどうか。機能数の多さは操作の複雑さと表裏であり、現場で使う人にとっては選択肢が多いほど迷いが増える。第二に、現場で継続的に使えるかどうか。電波状況の悪い現場でのオフライン動作、手袋をした状態での操作性、写真の枚数が増えたときの表示速度といった条件は、カタログでは見えにくい。第三に、既存の業務との接続である。会計システムや積算ソフトとのデータ連携、電子納品の形式への対応がなければ、二重入力が残る。
導入の成否を分けるのは、製品の性能より進め方である。業務フローの見直しから現場への定着まで伴走する支援があるかどうかで結果が変わる。既存のやり方をそのままアプリに載せ替えるだけでは、入力の手間が増えたと受け取られて使われなくなる。何をやめるかを決めることが、何を導入するかと同じくらい重要になる。
試用にあたっては、最も条件の厳しい現場ではなく、協力的な担当者がいる標準的な現場で始めるのが現実的である。そこで運用の型を作り、社内の標準として広げる。全社一斉導入は、問題が起きたときの後戻りが大きい。
業界への波及効果
現場のデジタル化は、大手ゼネコンから中小の専門工事業者まで広がっている。国土交通省が進めるICT施工が公共工事の測量・施工を対象にしているのに対し、施工管理アプリが扱うのは日常の管理業務であり、工種や規模を問わず適用範囲が広い。
効果が出やすいのは、担当現場数の多い技術者を抱える企業である。移動時間と事務所作業を削れれば、そのまま担当可能な現場数と労働時間に効く。逆に、現場が少なく紙の運用が完成している企業では、切り替えのコストが効果を上回ることもある。
人材確保の面でも影響がある。紙とファックスが前提の職場と、現場から入力が完結する職場では、若手の定着に差が出る。ツールの有無そのものが、採用時の判断材料になり始めている。
実務者のアクション
導入を検討する担当者は、まず自社の業務のうち時間を取られている工程を実測する。写真整理に何時間、日報の転記に何時間かかっているかを把握しないまま製品を比較しても、投資判断の根拠にならない。
比較の段階では、候補を3製品程度に絞り、実際の現場データで試用する。デモ環境ではなく自社の図面と写真を使い、電波の弱い現場での動作を含めて確認する。あわせて、既存の会計・積算システムとの連携可否と、電子納品の形式への対応を確認する。
導入を決めたら、対象現場を限定して運用の型を作る。何を紙でやめるかを明文化し、現場の担当者が判断に迷わない状態にする。導入後は、使われているかどうかを利用状況で確認し、使われていない機能があれば運用を見直す。ベンダー側の定着支援の内容も、契約前に具体的に確認しておく。