背景・経緯
公共工事の発注は、年度予算の成立を待って手続きが始まるため、年度当初の4月から6月にかけて工事量が落ち込み、年度末に集中しやすい構造を持っている。この波は受注側に直接影響する。閑散期には技術者や技能者、建設機械が遊び、繁忙期には手が回らなくなる。工期にも無理が生じ、時間外労働の上限規制のもとでは対応そのものが難しくなる。
この構造を是正するために国土交通省が進めているのが施工時期の平準化であり、その中核的な手段が債務負担行為の活用である。制度の考え方と地方公共団体の取組状況は国土交通省の施工時期の平準化に関するページ(新しいタブで開きます)にまとめられている。
債務負担行為は、単年度会計の例外として、複数年度にわたる支出をあらかじめ議会の議決を得て設定しておく仕組みである。このうち、設定した年度の支出額をゼロとするものが「ゼロ債務負担行為」と呼ばれる。国の予算で同じ考え方を用いるものは「ゼロ国債」と呼ばれ、国土交通省は平成29年度当初予算からこれを設定している。それ以前にも、工期が12か月未満の工事に対する2か年国債の設定などが行われてきた。
詳細・ポイント
ゼロ債務負担行為の実務上の効果は単純である。翌年度に施工する工事を、当年度のうちに公告・入札・契約まで済ませられる。契約が年度内に完了していれば、受注者は年度が明けた直後から準備と着工に入れる。結果として、従来なら空白だった4月から6月に工事が動く。
「ゼロ」という名称は、設定年度に支出が発生しないことを指している。支出は翌年度以降に立つため、当年度の予算規模を膨らませずに発注のタイミングだけを前倒しできる。予算の総額を増やすことなく波を均せるのが、この仕組みが推奨される理由である。
地方公共団体向けには、国土交通省が平準化の先進事例を「さしすせそ」として整理しており、債務負担行為の活用はその柱の一つに位置づけられている。あわせて、柔軟な工期設定や繰越制度の適切な活用、早期の予算執行に向けた目標設定などが組み合わせて示されている。単独の施策ではなく、複数の手段を組み合わせて年間の発注計画を組み立てる考え方である。
国土交通省は地方公共団体ごとの平準化の進捗・取組状況を「見える化」して公表しており、団体間の差が把握できる状態になっている。制度が用意されていても、議会手続きや発注部局の体制の都合で活用が進まない団体があるため、実施状況そのものが評価の対象になっている。
受注者から見た留意点もある。前倒しで契約した工事は、翌年度の早い時期に施工が始まるため、技術者の配置計画を年度をまたいで立てる必要がある。年度末の繁忙と重なる時期に契約手続きが集中する点も、実務上の負荷として認識しておく必要がある。
業界への波及効果
平準化が進むと、受注者は年間を通じた稼働の見通しが立てやすくなる。技術者や技能者の通年雇用が成立しやすくなり、繁忙期だけの応援や無理な工期での施工を避けられる。建設機械やリース資機材の稼働率も安定する。担い手確保が業界全体の課題である以上、年間を通じて仕事があることは処遇改善の前提条件になる。
発注者側にも利点がある。年度当初に工事が動き出せば、年度末の完成検査の集中が緩和され、監督業務の負荷も分散する。不調・不落のリスクも、受注者側に余力がある時期に発注することで下がりやすい。
一方で、ゼロ債務負担行為を設定するには議会の議決が必要であり、翌年度の事業内容が固まっていることが前提になる。設計や用地取得が遅れている案件には使えない。平準化は発注手続きだけの問題ではなく、事業全体の進め方に関わる。
実務者のアクション
発注者の担当部局は、翌年度に施工予定の工事のうち、設計が完了し用地に問題のない案件を洗い出し、ゼロ債務負担行為の対象候補として整理する。議会の議決スケジュールから逆算して、いつまでに案件を確定させる必要があるかを把握しておく。
自団体の平準化の進捗は、国土交通省が公表している見える化資料で他団体と比較できる。数値が低い場合、原因が制度の未活用にあるのか、設計の遅れなど上流工程にあるのかを切り分ける。
受注者側は、発注見通しの公表資料でゼロ債務負担行為による前倒し発注の有無を確認し、年度をまたぐ技術者配置を想定した要員計画を組む。年度当初に着工できる案件が増えるほど、繁忙期に無理を集中させずに済む。地域の建設業協会を通じて、平準化の実施状況について発注者と協議する場を持つことも有効である。